ファド

町田 雅之 
 日本に演歌があるように、スペインにフラメンコがあるように、ポルトガルにファドといわれる民衆の歌がある。かなり前の映画でアマリア・ロドリゲスという歌手が歌い、広く知られるようになったが、フラメンコほど有名ではないようだ。ファドとは「運命」とか「宿命」といった意味で、リスボンに代表される港町から発祥したといわれるポルトガル人の心の歌である。伴奏には普通のギターに加えて「涙の形をしたギター」とも呼ばれる丸い胴のポルトガルギターが用いられ、哀愁に満ちた高音の調べを奏でる。今でもポルトガルの港町では、夜になるとあちこちの酒場でファドが歌われている。
 ポルトガルは、オランダより五十年以上も早く日本との交流を始め、貿易品だけでなく、キリスト教に代表されるヨーロッパのさまざまな文化を日本に伝えた。スペイン人宣教師ザビエルの来航にはたした役割も大きい。西海町の横瀬浦は、彼等の拠点であったし、出島ももともとポルトガル人たちのために作られた場所である。平戸では一五六一年に、おそらくはささいな原因で、しかし言葉が通じなかったばかりに十数名のポルトガル人が斬り殺されるという不幸な事件が発生した。宮の前事件である。「宮の前」は現在宮の町と名前を変え、そこに住む人々は今でもポルトガルとのゆかりの場所であることをよく知っている。
 この秋、ポルトガル大使館のはたらきかけにより、長崎県内では二か所でファドのコンサートが開催される。世界最古の大学で有名な古都コインブラからやってくる本格派ファドグループ「プラクシス・ノーヴァ」のコンサートは、大村が十月十三日、平戸が翌十四日である。言葉が通じにくいことに変わりはないが、音楽を通じてポルトガルをちょっとでも身近に感じることができれば、これからの交流の大きな力になるに違いない。

1999.10.03掲載 

                                   
 

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